第七講 気持ちの“ウラオモテ”

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「智明がなんで、あの時あんなに怒ったか……解るか?」 「……ミコちゃんと、オーバーラップしたから?」 「榎本が好きだったからだよ」  これで、三度目だ。  冷静に顔色一つ変えず、海堂はそうだと告げた。  ここまで言われると、やはり期待してしまう。  無意識のうちに赤くなった顔を指摘され、私は別の意味で顔を真っ赤にした。  それに小さく笑うと、海堂は懐かしそうに目を細めた。 「二年前、俺は本気で榎本のこと好きだったんだよ。でも、榎本は俺じゃなくていつも智明のことを見てた。だから面白くなくて、もうあいつに取られたくなくて、あんなことをした。俺の好きになる娘って、皆智明のことが好きなんだよなぁ」  やや自嘲的に笑う海堂は、私の思っていたようなイメージではなくて。  とても切なくて、苦しい思いをして、仕方なくてあんな行動に出た。  そんな気持ちが、ひしひしと伝わってきた。 「ミコちゃんの時も、そうだったし」  その一言に、私は顔が引きつるのを感じた。  海堂はそれに気付いて、あえてカラカラと無理に笑ってくれていた。  それにはすごく、感謝した。 「ま、今じゃ弟と付き合ってるみたいだし、複雑っちゃあ複雑だけどなぁー」 「……」 「平気、平気。それでも、智明は榎本一筋みたいだから」 「……そんなこと、聞きたいんじゃないッ!」  感情に任せて、海堂の胸倉を掴み上げた。  鋭く睨みつけている私の顔が、海堂の瞳に映って見える。  その顔は、今にも泣き出してしまいそうなほど情けなかった。  それでも溢れ出す感情の波を抑えることが出来ずに、私はただ怒鳴り続けた。 「あんたの所為で、こっちは男嫌いになって大変だったんだッ! 触れられるのなんて以ての外だし、電車とかでたむろってる男子を見るだけで気持ち悪くなったり、話すらしたくもなくて、急に触られると反射的に手か足が出て怪我させそうになるしッ! あんたの所為で、ずっと……怖くて、しんどかったんだか、ら―――っ」 「ごめん。本当に、ごめんな」  言葉を遮るように、不意に海堂の胸に抱き寄せられた。  二年前とは違って、全てが優しく温かかった。  今度は涙が溢れ出してきて、海堂の服を濡らしていった。
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