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私が驚いて硬直していると、今度は頭をぽんぽんと子供を撫でように叩かれた。
「俺が出来んのはここまでだ。それ以上は、智明にこの前止められたからな」
「えっ……?」
言っている意味が解らなくて、私はつい聞き返すように海堂を見つめた。
それに海堂は困ったようにはにかんで、私を抱き締めていた手をそっと離した。
「ま、会った時にでも本人に聞いてみることだな。じゃ」
とんっ、と肩を叩き、海堂はそのまま何事もなかったかのように立ち去って行ってしまった。
置いてけぼりを食らった私は、ただその場に立ち尽くしていた。
ゆっくりと思考が回り始め、ぎこちなく体が動き出す。
そろそろ、学校に行かないと。
提出物、出さないとだし……。
頭ではそう思うのに、なかなか体が思い通りに動いてくれなかった。
私は出来る限り急ごうとするのだけれど、どうしても足が重くて動きが鈍い。
気が付くと、私はあっという間に学校の昇降口に到着していた。
十分近くは記憶が飛んでいる。
恐らく、ぼんやりとしながら無意識のうちに学校へと向かっていたのだろう。
はっとして、てきぱきと靴を履き替える。
今度は自分でも不思議なくらいに行動が速かった。
そのまま職員室へと直行し、ドアをノックする。
中から許可が出たのを確認してから、一声掛けて私は職員室に入った。
「先生、これ。預かっていた提出物です」
「おぉ、ご苦労さん」
私が封筒を渡すと、先生はニッと歯を見せて子供のように笑った。
彼の歯はタバコなどの所為で白さを無くし、黄色っぽくなっていた。
特に他の用などもなかったので、そのまま職員室を出ようとした時。
不意に先生から呼び止められた。
少しぼーっとしていた私は、ただ声を掛けられたということしか解らなくて、もう一度先生に聞き返した。
「あの……すいません、もう一度言ってもらっていいですか?」
「だから、結城が今どんな感じか知ってるかって聞いたんだ。榎本は結城と仲が良かっただろう?」
屈託のない笑顔で言う先生に、私は思わず固まってしまった。
しばらくしてから、頬を引きつらせながら無理矢理笑った。
それをさすがに不審に思ったのか、先生が怪訝そうな顔で見据えてきた。
「……結城と、何かあったのか?」
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