第七講 気持ちの“ウラオモテ”

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 たった一言だったというのに、それだけで今までの出来事が全て思い起こされたような気がして、勝手に涙が零れ落ちた。  それにぎょっとした先生は、焦って謝罪だの色々しはじめた。  だが、それではなかなか涙は止まらなくて、私は静かに零れ続ける涙を拭うことなく立ち尽くしていた。  はらはらと落ちる雫を、拭ってくれる彼はいない。 「せん、せ……相談、乗ってくれます、か……っ?」 「お、おう? 俺に出来ることがあれば何でも言え、担任なんだから当たり前だろう?」  戸惑いながらも笑顔で頷いてくれる先生に、私は蚊の鳴くような声でもちゃんと全てを説明した。  私が結城のことを好きだということ。  それを一週間前、彼に伝えたこと。  その直後、靭帯をやって入院してしまったこと。  それ以来、どうも顔を合わせられずにいること。  それを聞いて一度は驚いたように目を丸くしていた先生だったが、少しすると教師の顔になって自分の意見を話してくれた。 「別に、振られた訳じゃないんだろう? だったら、堂々と会って白黒はっきりさせればいいだけじゃないのか? それに、今まで担任として見てきた訳だが……いや、そうじゃなくても、結城はお前のことを大事に想ってるように見えたぞ? そんなに不安がることはないんじゃないか?」 「……とにかく、話してみなきゃ解らないですよね」 「あぁ、そうだな。勝手に相手の気持ちを決め付けるのは良くないぞ」 「はい……そう、ですよね」  私が小さく微笑みながら頷くと、先生は少し意味深な笑みを浮かべた。  それに首を傾げていると、先生の顔がニヤリと崩れた。 「まぁ、お前達に限ってないとは思うが……。俺が今月の初めに話したようなことだけは、起さないでくれよ?」  一瞬何を言っているのかよく解らなかったが、遠い過去のような気がしていた記憶が蘇ってきた。  その二人は付き合っていたんだが…―――浮かれ過ぎて、デキちゃったんだよ。  思い出した途端。  ボッ、と火が出たんじゃないかと思うくらい、一気に顔が熱くなった。 「ぜっ……絶対に有り得ませんッ!」 「本当かぁ? お前はそうでも、向こうはそうじゃないかもしれないぞ? ……ま、とにかくあとあと泣きついてくるような不祥事さえなければ、俺が口出しする必要もないから助かるんだがなぁ」 「~~~~っ」
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