第七講 気持ちの“ウラオモテ”

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 私は何も言えなくなってしまって、真っ赤になったまま足早に職員室を飛び出した。  そんな私の背に、先生が「頑張れよ~」と呑気な応援を投げ掛けてくれた。  それが少し嬉しくて、勇気が湧いてきた。  とはいえ今すぐどうすることが出来るほど心の準備が出来ている訳ではないから、一旦図書室で勉強でもしながら考えることにした。  図書室に来るの、倒れて以来かも……。  倒れた時に二年前のことを思い出し、それ以来は結城とぎくしゃくしたり何だかで勉強会も開かれなくなった。  そのため、来る機会も無くなっていたのだが。  瞼を閉じれば、それまで結城と過ごした図書室での記憶が蘇ってくる。  初めて図書室で勉強会を開いた時は、ひどく情けない顔をしていた。  この時は何とも思ってなかったし、むしろ嫌いだと思っていた。  それから毎日放課後に集まって、毎度のように眉間にしわを作って唸っている結城を見つめていた。  最初は面倒だと思った。  でも、少しずつ見ているのも悪くないと思えてきて。  というよりも、簡単な問題すら解けずに呻いている結城を見ていて、少し面白かったというのもある。  たまにからかってくる意地悪な結城ですら、皆の知らない結城を知っているような気がして優越感があった。  今思えば、彼が仔犬クンと同一人物だと知ったことによって価値観が変わった、というのは違うのかもしれない。  元々、私は結城のことが、好きになってきていたのかもしれない。  それに止めを刺すように、初恋の相手の仔犬クンが結城だったと知って。  それで完全に、落ちたのかもしれない。  ―――ガラッ。  静かに、図書室の扉を開く。  カウンターには誰の姿もなく、誰もいないのだと思った。  私はぼんやりと結城と過ごした時間の記憶を手繰りながら、部屋の中へと入っていった。  不意に、心の声が外に漏れ出した。 「……会いたいなぁ」 「誰に?」  びっくりするくらいの速さで、返事が返ってきた。  その声に覚えがあって、私は思わず硬直する。  心臓が有り得ないくらい、ドキドキと騒ぎ出した。  絶対に、顔が真っ赤になっているはずだ。  まさかの事態に思考が追いつかず、私はロボットのように動きがぎこちなくなっていた。  なんで……なんで、ここにいるのよ!?
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