第一講 磁石のような二人

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 再び、放課後の図書室。  なんだかんだでこんな毎日が一週間ほど続いている。  最初のうちはあまりの馬鹿さ加減に嫌気がさして、よく口ゲンカになってしまっていた。  最近では少しずつそれも少なくなってきたものの、その理由は単に呆れて私が文句を言う気すら失せただけだった。  そんな、今日この頃。  今日は雨で、外で行う運動部の大半は休みだった。  シトシトという雨音だけが図書室の中に響いている。  そんな中で、私は相変わらず一人で本を読んでいた。  でも、今日は少し違うところがある。  図書委員で隣のクラスの女の子、茅ちゃんこと茅原恋音(かやはらかのん)が話し相手としていたからだ。 「忙しい? 図書委員」  パラ、と本をめくる音の後に、静かな声音で尋ねてみた。  ぱっと顔を上げてカウンター越しに私のことを見る目は、まるでうさぎのようで可愛いことこの上ない。 「ううん、そんなことないよ。図書委員って言っても、ずっとここで店番していればいいんだもん」 「ハハ。店番て」  他愛もない話ばかりだったが、それで花を咲かせているのも楽しいものだ。  その中で不意に、とある人物の名前が思い浮かんだ。  もう一人の図書委員である。 「確か、茅ちゃんの他にも図書委員っていなかったっけ? 男子でさ、何考えてるのかよく解らないような奴」 「あ、あはは……。葛和(くずわ)君のこと、かな。あまり感情が表に出ないだけで、普通に笑ったりするんだよ? それに、すごく優しいというか、一緒にいて落ち着くというか」 「ふーん……」  興味を持ったのかよく解らないような私の返事に、彼女は静かに付け加えた。 「なんか……小夏ちゃんって、少し葛和君に似てるかも。あと、結城君も葛和君に似てる気がする」 「え、つまりそれって、私があいつに似てるって遠回しに言ってる?」 「よく解らないけど、何となく……」  むぅ、と考え込みながら、茅ちゃんは受付のカウンターに突っ伏せた。  彼女の姿はとてもいじらしく、あの柔らかそうなほっぺをつんつんと突いて遊びたいくらいだ。  そんなことをしたらきっと、茅ちゃんは目を真ん丸にしてぱちくりさせ、きょとんとした顔でうさぎのように見つめてくることだろう。  そんなことを考えていたら頬が緩んでしまったらしく、茅ちゃんに笑われてしまった。  あははっ、と小さく笑い合っていた時。
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