第七講 気持ちの“ウラオモテ”

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「俺、かなりのヒント出してたんだけど? 握手しようとしただけで蹴られるっていうのは、最初に勉強教えてもらえるよう頼んだ時のこと。『嫌いでしょ』って聞いたら『嫌い』って即答するってのも、少し前までの榎本のことなんだけど?」  むっとしたような声の結城は、私の顔を両手で押さえながらおでこをくっつけてきた。  顔の熱が伝わってしまいそうで、つい目をつむった。 「それに、『勉強の出来ない馬鹿は嫌い』って言ってたのも榎本だよ? 覚えてないかもだけどさ」 「そうならそうって、言ってくれないと……わかん、ないよ」 「ん、ごめん。でも、榎本を困らせたくなかったから。許して?」  まつ毛がくっつきそうな距離で目を細めながら言われたら、何も言えないではないか。  そんな愚痴と溜め息を心の中だけで吐いて、こっそりと閉じていた瞼を開けた。  目と鼻の先に、結城の顔がある。  それが少し熱っぽい気がして、私は少し眉を下げた。 「ハハ。だから、その顔なに? 俺のこと、誘ってんの?」 「なっ……!? なに、言って…―――っ!」 「ジョーダンだって、怒んないでよ。もう、勝手にどっか行かないから。一人にしない。俺のこと、まだ好きだって思ってくれてるなら…―――俺と、付き合って?」  返事をする前に、その唇を塞ぐように口付けされた。  三回目は最初よりも長く、二回目よりも優しく触れるだけのキス。  その間も、結城の手は私の頭や顔を撫でるように動いている。  息苦しさから結城の服を掴んだ私を、より強く抱き寄せた。  今までよりほんの少しだけ深いキスをすると、結城は名残惜しそうに唇を離した。  こてん、と顔を私の肩に埋めると、結城はとても長い溜め息を吐いた。 「今のは、肯定って考えてもいいの?」 「……う、ん」  私が小さく頷くと、結城は一瞬で頬を緩めてもう一度抱き締めてきた。  何度「苦しい」と言っても、口では「ごめん」と言うけれどなかなか離してくれなかった。  それはそれで嬉しいと思っている自分がいたから、私は振り払おうとは考えなかった。 「なんか……ミケばっか、ずるい」  急にぼそりと呟いた結城の言葉に、私は首を傾げるばかりだった。  顔を上げた結城の表情が、まるで不機嫌にむくれた子供のようで、ますます意味が解らなくなった。
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