43人が本棚に入れています
本棚に追加
全く心当たりがないのか、結城は左右に何度も首を傾げている。
そりゃあそうだよ。
あんなの、気づく方がすごいし。
そういう意味では、伎崎ってやっぱりすごいんだろうな。
さすが、学年一位だ。
「月が、綺麗ですねって……言ったの、覚えてる?」
「あー、うん。それがどうかしたのか?」
「……それ、貴方のことが好きですって言ってるのと同じ意味なんだよ。後で調べてみて」
それ以上は恥ずかしくて言えなかった私は、結城の肩に顔を埋めて黙り込んだ。
そんな中でも、相変わらず私は結城の上に覆い被さる状態のまま。
これ以上に恥ずかしいことなどないような気がする。
おずおずと結城の様子を盗み見ると、彼はぽかんと口を開けながら固まっていた。
その顔には、「嘘、そうなの?」と書かれているような気がした。
ひと段落着いて、何だかふわふわした空気に包まれてきた、その時―――。
「もういいっ、ついて来ないでよッ!」
廊下から、聞き覚えのある叫び声が響いてきた。
はっとした私は、結城のことなどお構いなしに勢いよく起き上がった。
どう考えても、あの声の主は澪だった。
しかも、少し泣きそうな怒鳴り声だ。
一体、何があったのだろうか。
「ちょっ、榎本、ストップ!」
思わず駆け出そうとする私の腕を掴み、結城がその動きを止めた。
真っ白になっていた頭が鈍く動き始め、ゆっくりと振り返って結城の顔を見る。
其処にあった二つの瞳は、心配そうに私を見つめていた。
「一旦落ち着け。そんな顔で行っても、きっと、小谷に心配かけるだけじゃないの?」
「……うん、ごめん。あり、がと」
しゅんとしながら深呼吸する私を見て、結城は一安心したように肩を落とした。
それから結城は、私のために声のした方へ一緒に向かってくれた。
その間も、私が暴走しないように強く手を握ってくれていた。
だけど私はそれ以上に、澪のことで頭が一杯になっていた。
夏祭りの時、明らかに澪と橋田の間には何かがあった。
それ以来は何だか二人ともぎこちなくて、聞き辛かったというのもあり話が聞けずにいた。
もしかすると、今澪が話している相手は橋田なのかもしれない。
こんな時、一体どうしてあげればいいのだろうか?
最初のコメントを投稿しよう!