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全然解らない。
こういう時ばかりは、琴音がものすごく羨ましい。
きっと、気の利いた言葉の一つや二つは掛けてあげられるのだろうから。
「待てって、小谷! 俺の話を聞いてくれ!」
「もういいって言ってんじゃんか、同情しないでよッ! その方が、よっぽどつらいんだよッ!」
「小谷っ!」
廊下の角を曲がると、階段の踊り場で口論している澪と橋田の姿が飛び込んできた。
それには結城も驚いたのか、繋がれていた手が自然と離れた。
それを寂しいと思う前に、私は二人の元へと駆け出していた。
澪は私の姿を視界に捉えるや否や、その瞳から急に涙を零し始めた。
橋田もぎょっとしたように固まっていたが、何処か悔しそうに唇を噛み締めている。
内心首を傾げながら、私は泣きじゃくる澪を抱き締めた。
「ど、どうしたの、澪?」
「うっ、なっちゃん……っ! う、うぅっ……」
「泣いてるだけじゃ、何があったのか解らないよ」
どうどう、と澪の背を撫でながらなだめると、私は目の前にいる橋田をキッと睨みつける。
橋田は気まずそうに、苦々しく顔を歪めていた。
背後からゆっくりと近付いてきた結城も、この状況の意味が解っているのか浮かない顔をしている。
この二人の関係だけは、どう転がってもなかなか上手くまとまらないらしい。
「……何が、あったんだ?」
「……」
澪は泣いているだけで答えてくれないし、橋田は何やら黙り込んで話そうとしてくれない。
このままでは、気まずい空気のままだ。
一体、どうしてあげればいいんだろう……?
「小谷、頼むから俺の話を…―――」
「嫌だっ! もう聞きたくないっ、どうせうちじゃ琴ちゃんには勝てっこないんだよっ!」
「そんなこと、一言も言ってないだろッ!?」
必死なあまりに声を張り上げた橋田の言葉に、澪はびくっとあからさまに跳ね上がった。
ふるふると怯えたように震える澪を見て、橋田も後悔したようにうなだれた。
「……俺は、確かに綾咲のことが好きだった。でも、あの夏祭りの日を境に、気持ちに変化が出てきたんだ」
変化って何、なんて野暮なことを聞くつもりはない。
それを今聞くには、とんでもない勇気がいるような気もするから。
「今こんなことを言ったって、振られた時の保険だと思われても仕方ないと思う。それでも、ちゃんと言っておかないといけないと思うから、伝えておく」
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