第七講 気持ちの“ウラオモテ”

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 橋田はまだ痛々しい傷痕が残る顔を引き締め、まっすぐ澪を見つめた。  あの日、橋田は澪を庇ってボロボロになるまでチャラ男達に殴られたらしい。  その痕がまだ顔に残っていて、痣や擦り傷のような痕が生々しい。  其処までして守るのは、何か澪に思うところがあるからなのではないかと思っていたが、実際そうだったようだ。 「あの時……いや、その前からか。ずっと俺のために健気に応援してくれていて、自分がつらくても俺に諦めろとは言わないでずっと支えてくれていた小谷が……。もし、もっと早くに小谷の気持ちに気付いていれば、綾咲に出会う前に出会っていれば、きっと俺は小谷に惚れていたと思う」 「……でも、それはもしもの時じゃん。今は、その可能性なんて無いんでしょ」 「だから、言っただろ? 今こんなことを言ったって、振られた時の保険だと思われても仕方ないって」  橋田は悲しそうに微笑むと、私の手から澪を奪ってその胸に抱き寄せた。  それには澪だけではなく、私と結城も驚いて声が出なかった。  とても小さな声で、結城が「大胆なことするなー」と呟いていたが、あえて突っ込まないことにする。  さっきのあんたの方がよっぽど大胆だったでしょうが!  ……なんて、言ってやらないんだから。 「振られてすぐだし、何度も小谷を傷付けた。傍から見たら、すごく不謹慎かもしれない。でも……俺、小谷のことが好きになりそうなんだ。だから、もう少しだけ……俺のわがままに付き合ってくれないか」  まさかの告白に、澪はぽかんとしており返事がなかった。  不安そうに澪を抱き締める橋田は、少し情けなく見える。  ちらっ、と横目で結城を見ると、同じように私を見ていた結城と目があった。  彼は小さく苦笑すると、はにかみながら頬を掻いていた。  結城にも解ったのかもしれない。  今の橋田は、いつぞやの結城とそっくりだということに。 「まだ、可能性はあるの……?」 「あぁ、十分過ぎるくらいだ。むしろ、日に日に惹かれていってるんだ。自分でもちょっとびっくりしてるくらいだよ」
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