第七講 気持ちの“ウラオモテ”

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「ハハ。……って、ちょっ!?」  ガバッ、と勢いよく後ろから抱きつかれた。  誰かなんて解り切っているから、振り返らない。  というよりも、恥ずかしくて顔なんて見れない。  私の肩に置かれた結城の顔が、溜め息と共に深く沈み込む。  何事かと困惑していると、結城は抱き締める力をより強めた。 「……やっと、触れる。ずっと、近付きたかった。でも怖かったから、何も出来ずにいた。こんな日がくるなんて……俺、夢でも見てんのかな?」 「これがもし、夢だとか言われたら、私はそんな夢を見た自分を殴りたくなる」 「……なんで」 「だって……こんなの、結城にこういうことして欲しいと思ってるみたいで、恥ずかし過ぎて死んじゃいそう」 「ふ、ククッ……ハハ!」  後頭部の辺りから降ってきた元気そうな笑い声に、私は思わずほっと胸を撫で下ろした。  だが、すぐに前言撤回。 「そういう夢、見た時は言ってよ。俺が、全部現実にしてあげるからさ」 「ばっ……ばっかじゃないの!?」 「そーですよ、俺は榎本にべた惚れしてる万年赤点馬鹿ですよーだ」  ニッと歯を見せてはにかむ結城は、本当に眩しく見えた。  そんな彼にもう恥ずかしいとか照れ臭いなんてレベルを通り過ぎてしまった私は、ただただその場で棒のように固まっていた。  不意に私の耳元に顔を近付けた結城は、少し恥ずかしそうに声を潜めて言った。 「もう、一生、離したくないけど……小夏が恥ずかしがるだろうから、我慢する」  うっ……。  急に下の名前で呼ぶのは、反則でしょうに。  心臓が持ちそうにないんですけど……。  バクバクと聞いたこともないような音を立てている自分の心臓に驚きながら、私は静かに小さく頷いた。  それに耳元から、へへっ……、と照れ臭そうだけど嬉しそうな声が響いてくる。  正直もう、熱に当てられてどうにかなってしまいそうだった。  深く深呼吸をすると、結城の匂いが肺にまで入ってくる。  それくらいに、近距離だったということだ。  だが、それは呆気ないほどにあっさりと離れてしまった。  それが少し寂しくて、私はじっと上目遣いに結城を見つめた。  結城は勢いよく顔を背けると、頼りなく松葉杖で速めに歩き出した。
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