第一講 磁石のような二人

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 ガラッ―――。  図書室の扉が開いたかと思うと、その向こうにはうっすらと汗を浮かべる二人の男子が立っていた。 「あ、葛和君。それに結城君も……。お疲れ様」  癒し属性を兼ね備える茅ちゃんは、二人をふわりとした笑顔で出迎えた。  前にいた葛和が同じように、きつく結ばれた糸を解いたかのような優しい笑みを浮かべた。  そんな二人の間に流れるふわふわした空気に耐えかねた結城が、ドアの前に立ったままの彼を押し退けて苦笑しながら入ってきた。  私はもう、苦笑いを浮かべるしかなかった。 「なんで二人が一緒なの?」 「あー、まぁ。部活が同じだし」 「えっ」  意外過ぎて、私は図書室にもかかわらず声を張り上げてしまった。  すぐに結城と茅ちゃんが口元で人差し指を立て、「しーっ」と声を潜めて指摘した。  次々と出て来そうな言葉をぐっと堪え、私は口を両手で塞ぎながら渋々頷いた。  鼻から息を吐き出した結城は、私の座っていた席の隣に座ろうとした。  だが、私がギッと睨み付けると大人しく一つ空けて隣の席についた。  ガサガサとバッグの中を探ったかと思うと、雑にノートや教科書類を広げ始めた。  一方、葛和はカウンターに入ると改めて茅ちゃんと挨拶を交わし、隣に置かれたパイプ椅子に腰を下ろしていた。  ―――ギシッ。  パイプ椅子が軋む音が鳴る。  ―――パラ、パラ。  ノートをめくる音が聞こえる。  ―――カチ、カチカチカチ。  シャーペンのノック音がやけに耳に障る。  雨音が雑音を吸い込んで静まり返っている図書室の中では、些細な音でも鮮明に聞こえてしまう。  何度も何度も繰り返されるノック音に、つい苛々して本に向けていた視線を隣の人物に移す。  今度は筆箱の中をガサゴソと探し出した。  あー、もうっ。 「……ん。これ、使えば」 「えっ? あ……おー。どーも」  びっくりしたように目を丸くしていた結城は、小さくぺこりと頭を下げて私の差し出したシャーペンの芯を受け取った。  中から芯を一本だけ取り出すと、すぐ私に「ありがと」と礼を言って返してきた。  なんで一本だけかな、と思いながらも、それを口には出さずに再び本を読み進めた。
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