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しばらくはスラスラと鳴っていた音が、ぴたりと止まった。
相変わらず、すぐに解らなくなり手が止まっているようだ。
うぅん、と呻き声を上げながら頭を抱え込み始める結城に痺れを切らし、私の口から溜め息が零れる。
「なんで、それくらいも解らないかなぁ。そこ、中学二年の時にやるやつだし……。ちゃんと、授業受けてた?」
「それは………その、寝てた」
「呆れた。そりゃ出来なくて当然だ。……ほら、これからやりなよ。いきなり習ってない所の応用やろうとしても訳解んないでしょ」
「……」
ぽけっ、と惚けたような間抜けた顔をした結城は、私の差し出す数学の参考書を視界に捉えながら見つめてきた。
参考書をまじまじと見られるのが嫌で、わざと机に何度も軽く叩きつけながら差し出した。
ぎこちなくそれを受け取ると、付箋の貼られたページをパラパラとめくって目を通し始める。
最初は、小難しそうに眉間にしわを寄せていた。
それが少しずつ和らいでいき、仕舞いには結城は肩を震わせてクックックッと吹き出し満面の笑みを湛えていた。
やっぱり、変に手を焼いてやるんじゃなかったかも。なんか、ムカつく。
「ハハ。これだけしてもらってたら、馬鹿な俺でも出来そう」
「……そ。なら、頑張って。私はもう必要ないでしょ」
―――ガタン。
小さな音を立てて、私は椅子から立ち上がった。
読みかけの本に使い古した押し花のしおりを挿み、それをてきぱきとバッグの中に詰め込む。
肩に背負って足早にドアへと向かおうとした途端、シャツのたるみの部分をぎゅっと掴まれた。
……動けない。
動いたらスカートに入れていたシャツが引っ張られて、出てきてしまいそうな気がする。
なんだか、子供に「行かないで」と服の裾を掴まれているようだ。
「これは平気なんだ」
ニコッ、と笑みをみせる結城は、私のシャツを握ったまま軽く自分の方へと引き寄せてきた。
思わず私は、距離をとって身構える。
妙に険悪な雰囲気に茅ちゃんはおどおどと私達の顔を見合わせていて、葛和は冷静に本を読みながら横目でその様子を眺めていた。
「大丈夫じゃ、ないって」
「……そうっぽいね。榎本、涙目」
「―――っ!」
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