第一講 磁石のような二人

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 悪戯っぽく言いながら目元を指差している彼に対して怒りが湧いたのか、はたまたそんな顔を結城に見られたからなのか。  かぁーっと熱くなった顔を逸らして、目を擦ってみた。  ……全然、濡れてない。  私、騙された?  さっきとは違う意味で体がカッと熱くなって、恨みを込めて結城を睨み付ける。  凄んでいる私に気押しされることもなく、彼は口角を緩く持ち上げた。 「榎本、単純過ぎ。そんなんだと、いつか変な男に襲われるよ」 「……ご心配どうも。でも、私は男にそう簡単に触れられるほど注意力散漫じゃないから」 「俺の狂言に惑わされて青くなったり、赤くなったり。そんなことしてるような奴は心配だな、俺」  返す言葉が見つからず、私はむっとしながら睨み続けていた。  結城は私が渡した参考書に目を固定させながらも、たまにこちらの様子を見ながら意地悪い笑みを浮かべていた。  今まで、こんな結城の姿を見たことが無い。  普段はいつも少し幼げな子供っぽい所とかがあって、授業中はしょっちゅう舟を漕いで眠っている。  休み時間は仲の良い男子達とつるんでわいわい騒いだりもしている。  だが、だからと言ってふざけ続ける訳じゃなく、周りに迷惑がかかっていると気付いたら自重して気遣いがちゃんと出来る奴で。  この数日で、見たことのない一面を沢山見た。  危機迫ったように頼み込んできたり、泣きそうになりながら不安を露わにしていたり、強気で諭したり、悪戯にからかってきたり。  もう、キャパオーバー寸前だ。 「智明。あんまり苛めない方がいいんじゃないの」 「……。ん、そだな、新(あらた)」  ぼそりと呟いた葛和の言葉に、結城は自己嫌悪に駆られたのか深い溜め息と共に段々俯いていった。  それに驚いてきょとんとしていたのか、私だけではなく茅ちゃんもそうだった。 「二人って、仲、良いの?」  やっとの思いで言葉を絞り出した茅ちゃんに、葛和は優しく微笑んで答えた。 「俺達、従兄弟なんだ。だから、それなりに」 「へ、へぇ……」
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