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「……ふーん」
しん、と途端に図書室の中が静まり返った。
いや、他に誰もいないから、話すことも動くことも止めれば静かになるなど解り切ったことだ。
耳を澄ませていたら、外の雨足が異常に強くなっていることに気付いた。
「……。雨、すごいけど。早く閉める?」
「え、でも、まだ二人がいるし……」
「今日は二人共、少し早めに切り上げたら? 雨強くなってきたし、傘ひとつでも帰れるうちに帰った方がいいよ」
葛和の少し威圧的な雰囲気に、私はおろか結城ですら抵抗することが出来なかった。
というよりも、反抗することを許されないような感じだ。
二人を見ていると、何となく解る。
付き合っているからこそ、二人きりで何かしたいのだろう、と。
そして、何より。
私が傘を持っていないことを知っていてああ言ったのかと思うと、茅ちゃんが彼にされるがままなのであろうことが瞬時に理解出来てしまった。
―――ガチャリ。
鍵の閉まる音が廊下に響いた。
「じゃあ。俺達は行くね」
「ま、またねっ、小夏ちゃん!」
ぶんぶんと手を大きく振って緊張気味に笑うと、茅ちゃんは葛和の後を追って見えなくなってしまった。
図書室前に取り残された、私と結城。
結城の右手には、紳士物の大きな傘が握られていた。
そして、私の手には傘はない。
この強い雨の中、傘なしで帰れというのだろうか?
そんなことを考えながら、私は黙って雨を降らす空を睨み続けた。
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