第一講 磁石のような二人

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 七月上旬。  もう少しで夏休みになろうとしていて、一番気持ちが浮かれる時期。  そんな時期に差し掛かっていた私達高校生は、前期末テストも終わり完璧に浮かれ切っていた。  だが、季節としては経費があまり無い学校内は地獄のように熱い。  クーラーが数年前からぶっ壊れているらしい。  変な物に経費を費やすくらいなら、早くエアコンの一つでも買い揃えて欲しいものである。  しかも学校裏にはだだっ広い雑木林が広がっていて、蝉がやたらと五月蝿い。  その所為で余計に体感温度が上がってしまっている。  これは深刻な問題である、なんて言っている無謀な馬鹿は生徒会に改善を訴え掛けているが勿論却下されている始末。  それはそれは、まったく目も当てられないほどに惨めな姿だ。 「ひとつ、お前達には注意して欲しい事がある」  担任の先生が、急に真剣な雰囲気を放ちながら話し始めた。  ついさっきまでがやがやと騒いでいた教室の中とは思えないほど、しんと静まり返っていた。  このクラスのメンバーは皆、騒がしいがノリも良くいちいち反応が良かった。  だからこそ先生もその性質を利用したのだろう、と私は冷静に分析する。 「昔、うちの生徒の中に不祥事を起こした生徒が居てな……。その生徒は夏休みに入るからって浮かれ過ぎて、タガが外れてしまったんだろうなぁ」  当時を思い出すように目を細める先生に、全員の視線が集まっていた。  私はなんとなく聞いた事があった話だったし、自分に限ってそんなことはないと確信を持っていたからこそ其処まで深く聞き入ってはいなかった。  退屈のあまり頬杖を突いて教室内を見渡すと、同じように話を真面目に聞いていない生徒がいた。  クラス一留年が心配な男子生徒、結城智明(ゆうきちはる)だ。  私のふたつ前の隣の席に座っているから、嫌でも目につく。  結城は何処かうとうとしていて、何度も前後に船を漕いでいた。  あいつが一番危なっかしいんだけどな、なんて考えながら私は小さく溜め息を吐いた。 「女子生徒と男子生徒の二人組だったんだ。その二人は付き合っていたんだが…―――浮かれ過ぎて、デキちゃったんだよ」
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