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私が気になって何度聞いてみても、頑なに語ろうとはせずはぐらかすばかりだった。
結城の横顔は何処か悲しそうにも見えて、私の中で疑問がますます膨らんでいった。
モヤモヤした何かが心を曇らせて、目の前のことすらもよく見えなくなってしまったような気がした。
そんなことを考えていたら、また何も話すことなく沈黙が訪れた。
近付いて、気遣ってあげられないことが申し訳なくて、もどかしくて。
あぁ、私が男嫌いじゃなかったら、結城が濡れなくても済むようにもう少しだけ近寄れてたのかな、なんて。
らしくないことばかり頭を掠めて、息が苦しくなった。
気が付くともう、家の前についていた。
「あ、家、ここ。……傘、どうも」
「いーえ。どういたしまして」
家の前の屋根で雨宿りしながら、傘を差して突っ立っている結城に軽く会釈した。
ニッと少年のような愛嬌のある笑顔を見せ、当然だと言わんばかりの彼は小さな会釈を返してきた。
彼の右肩は、私の所為でびしょ濡れだった。
「……ごめん、寒かったでしょ」
「なに? 家にでも上げてくれるの?」
また、意地悪な結城が顔を見せる。
人が心配しているのに、と眉をしかめると、結城は微苦笑を浮かべてから傘で顔を隠した。
あまりにもずっとそうしているので、「風邪引くんじゃない?」と疑問と心配を口にした。
「……ん。でも、上がる訳いかないし。じゃ」
ピシャピシャと雨音と一緒になって歩いていく結城の背をじっと見ながら、私はどうしようもない気持ちに駆られていた。
それを振り払うように頭を横に振り、家の中に入る。
すると、二つ年下の弟がひょっこりと廊下に顔を覗かせた。
「夏姉ぇー、さっきの人、誰? 彼氏?」
「なっ……ち、違うって! ただの…―――」
其処まで言って、言葉に詰まる。
結城は、私にとって一体何なのだろうか。
クラスメイト?
友人?
それとも?
「……生徒。勉強、私が今教えてあげてて」
「へぇ。生徒、かぁ。珍し、夏姉ぇが男と一緒にいるなんて」
弟―――冬生(とうき)の言葉に、私はまた言葉を詰まらせる。
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