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先生が声を潜めながら言った途端、クラス中からわっと声が上がった。
女子は「やだぁ!」と照れたように話し始め、男子は「マジでかぁ」とニヤニヤしながらひそひそ話をしていた。
そんな騒がしさを取り戻した教室の中でも、結城が起きる気配はない。
これには少々感心する。
「こういう時に聞いていない奴が、あとあと問題起こして泣きついて来るんだよなぁ、結城!?」
「いッ!」
大音量を耳元で叫ばれた結城は、跳ね上がりながら椅子から転げ落ちた。
何が起きているのか解っていない様子の彼を見て、クラスメイト達はどっと一斉に笑い出した。
「ばっかじゃないの、あんた」
「う、うるせー。どうせ、お前だって聞いてなかったんだろ?」
私が小馬鹿にしたように呟くと、すぐさま反論しようと結城は机に手を掛けて立ち上がった。
それを冷めたような目で見つめながら、わざとらしく鼻を鳴らしてみる。
「じゃあ聞くけど、私に限ってそういう不祥事が起きると思う? 有り得ないよ、絶対に」
「そうか? そういう奴ほど、案外裏で何やってるか解んないと思うけどな」
「……は? 何言ってんの、馬鹿馬鹿しい。私は男に興味がない。原因が無いのに、どうして間違いが起きるっていうの?」
「はい、其処まで! お前達の痴話ゲンカは一旦終了だ」
「「何処が痴話ゲンカだッ!」」
呆れたように笑いながら仲裁に入って来た先生を、私達はついギッと睨んでしまった。
それには思わず先生も数歩後退っていたが、今更どうしようもなかった為そのまま視線を前に戻して流した。
不完全燃焼なのか、結城は物足りなさそうにむっとしていた気もするが、私にとってはそんなことはどうでも良かった。
少なくとも、この頃は。
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