第一講 磁石のような二人

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 結城に連れられてきた場所は、あまり人気のない体育館裏の広い空間だった。  ここは滅多に人が通らないからと、様々な用途で生徒が使用しているらしい。  例えば、告白の時に呼び出すのもここ。  人の多い所では決して話せないような、ヤバい話をする時もここ。  ムカつく奴を呼び出して焼きを入れるのもここ。  良かれ悪かれ、ここは生徒達に必要不可欠な空間となっている。  そんな所に連れてくるとは、一体どういう要件なのだろうか。 「榎本、早速で悪いんだけど、頼みがあるんだ」 「だから何よ。付き合って、とか言われても嫌だから」 「そう、付き合って欲し…―――って、違うっての! なに言わせるんだよっ」  何故か自爆した。  真っ赤になってあたふたと弁解しようとしているのは伝わってくるのだが、どうも何がしたかったのかが解らない。  つい苛立って、それが表情や声色に出た。 「さっさと要件を言ってくれない? 私、何回も言ってると思うけど、男が嫌いなの。だから、一刻も早くこの場からいなくなりたいのよ」 「解ってる。……単刀直入に言う。俺に勉強を教えてくれないか? いや、教えてくれ、頼む!」 「……はい?」  こればっかりは、どうも思考が追い着かなかった。  しばらく頭の中にクエスチョンマークが飛び交い、思わず硬直してしまう。  それを心配してなのか、結城が私の方へ一歩だけ近付いてきた。  それに思わず私は手で制し、その動きを其処で終了させた。  彼は何のことだか解らないようで、その瞳からは困惑の色が窺える。 「大丈夫、平気だから近付かないで。近付いたら反射的に足が出るから」 「えぇっ!? お、おー、解ったよ……」  完全拒絶を示す私に、さすがの結城も傷付いたようにしょんぼりと俯いた。  普段騒いでいる男子達の一人とは思えないほど、その姿は情けなく肩も落ちてうなだれていた。 「……で、どういう事だか説明してくれない?」 「あぁ、えっと。俺の成績がやばいのは知ってるよな? そしてお前はこの学年で二番目に頭の良い生徒だ。俺の言いたい事はもう解るだろ?」  つまり結城は、勉強の出来る奴に教えて欲しいのだ。  それは最初の頼み方で解っているが、何故二番目の私を選んだのかが不可解で仕方ない。  私は一応大きく頷いてから、疑問をぶつけてみることにした。
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