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「駆け抜けろ!」
脇目もふらずに一心不乱に走り出す。
瞬く間に両脇からモンスターが沸き上がり、壁となる。
恐怖だ。
誰もが前に向かうことだけを考えていたせいでいつの間にかあたしだけがみんなとはぐれたことに気付かなかった。
あたしがたどり着いた場所は行き止まりの小部屋みたになっている場所。
目の前には真っ黒な樹皮をした樹が生えていた。
それも洞窟型のダンジョンの中だというのにも関わらず鮮やかに紅葉したかのような葉まで豊かに茂らせている。
それが不気味でたまらない。
でもいつまでもここで立ち止まっている訳にはいかない。
こんな場所にあたし一人でモンスターの大軍がさっきのように襲いかかってきたら無事ではいられない。
九割方死んでしまう。
だからみんなと合流するために道を引き返そうとUターンした。
その時あたしはここが常に死と隣り合わせだというダンジョンということを失念していた。
ズルリと腰に感じる圧迫感。
「ひっ……」
あまりにも異質で、
その光景があまりにも恐怖心を誘い、声がでなかった。
泥の中から触手のように動いている樹の根のような長いものが巻き付いている。
それも一本ではない。
次々と現れては手首や太股、首などに巻き付いていく。
身動きがとれない。
「ウゴッ…」
苦しい。
口の中に泥の味が広がる。
樹の根が口の中にも入り込んできた。
声もあげられない。
そしてそのまま持ち上げられた。
根は全てあの不気味な樹に繋がっている。
そして樹には真っ暗なうろのようなものまでもががポッカリといつの間にか空いている。
それがあたしにはまるで口のように見えた。
抵抗しようとしても身体は動かせない。
懸命の抵抗虚しくうろの中に放り込まれてしまった。
ゆっくりと閉じるうろ。
それにつれて狭まっていく視界。
それがあたしが最期にみた景色だった。
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