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「招集命令に応じ、ただ今参上いたしました」
目の前の高そうな椅子に腰掛けている第十一師団将軍ドルムノーラという男はいかにも貴族といったような人物だった。
この国の古くからその血統を守り続けている純血の貴族の象徴である綺麗に整えられた金髪をオールバックにして鋭い眼光を蒼い切れ目の瞳から放っている。
自分の貴族の血が一切混じっていない平民の証拠である黒目黒髪がよりいっそう貧相に思えてしまう。
いい気はしない。
むしろ不快だ。
それはただ単純に容姿が整っているということに対しての僻みではなく、全身をくまなく観察しているような見方にだ。
なかなかステータスを覗く気にはなれない。
妙な真似をすれば斬るというような気迫さえ感じられる。
細身だが決して文官というような感じはしない。
むしろ根っからの武人のように見える。
豪邸で薔薇にでも囲まれながら紅茶でも飲んでいそうな優雅そうな外見と鍛え抜かれた剣の先端のような雰囲気が全くもって噛み合っていない。
どうやらこの将軍様は家柄や権力、金等でここまで登りついたような人物ではないようだ。
伊達や酔狂でやっている訳ではないという訳か。
どこぞの貴族出のボンボンかと思いきやこんな奴だとは思いもしなかった。
こりゃあこの前の『豚』の一件やら不敬罪なんかでこの場で斬られることも覚悟した方がいいかもしれない。
ステータス上だけなら勝てる自信はあるがやりたいとは思えない。
そんな相手に対して俺は支給されている薄っぺらいレザーアーマーだけで武器の類いは一切所持していない。
大剣なんかを一介の兵が持ち歩く訳にはいかないし、そもそも俺は剣なんて買ってないから支給されていない武器を勝手に持ち歩く訳にはいかず身に付けてさえいない。
斬られそうになったら逃げるくらいしか抵抗手段がない。
いくらステータスが上回っていたとしても素手で剣に勝てるとは思わないから万事休す。
既に後ろの扉は閉まっている。
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