最期

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もう、夜の十時を過ぎたころだろうか。 仕事帰りのサラリーマンたちが、足早に各々の自宅へ向かう。 俺も、つい一ヶ月前まではこのサラリーマンのようにビシッとスーツを…いや、帰りはネクタイを緩めていたか…着て電車に乗り、バスに乗り、家路についていた。 宮野信一郎。先月、警視庁を定年退職したその男は、物思いにふけり少し切ない気分になった。 今日は元同僚とささやかな慰労会をした。 居酒屋で、同期の三人で集まり、老後のことなど現実的なことを話した。 皆、文字通り仕事一筋の男であり、趣味もないからどうしようかと自虐的に話した。 そんことを思い出しながら、バス停に歩みを進めた。 「今日くらい、もう少し飲もうか」 独り言を呟いた宮野は、行き付けの小料理屋に行くことにした。 賑やかな駅前からやや離れた路地裏にその小料理屋はある。
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