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五月一日、警察庁の入居する中央合同庁舎。
「入れ」
警備局長室という名前の掲げられた部屋の扉をノックすると、中からまだ眠気が残っているのかと思わせる力の抜けた声が聞こえた。
「大崎警視正がおみえです」
若い男の声の後に扉が開けられ、その大崎警視正が入室した。
「大崎です」
「座りたまえ」
まだ眠気が残る声で部屋の主は促した。この部屋の主は、すなわち、全国警備公安警察を束ねる人物。
警察庁警備局長、阪本大二(さかもとだいじ)である。
「ゼロの情報を全て、出しなさい」
阪本がやや強い口調で大崎に言う。
「ゼロなどという組織は存在しませんが?」
大崎が生真面目そうな顔に似合わないような笑いとともに言う。
「上司のまえで建前などいらんよ」
「建前などではありません。ゼロなどという組織は存じ上げません」
大崎はしつこく阪本局長に食いつく。
「まあいい。冗談はここまでだ。君が特命で宮野さんをマークしていたことぐらい、局長である私は知っているんだ。どのような理由で宮野さんをマークしていたのか知らんが、阻止することは出来なかったのかね?」
「まさか、局長からそのような事を聞くとは思いませんでしたよ。公安部のウラ作業班を使っているのですから、阻止なんてできませんよ」
阪本は黙っている。
「局長と宮野氏の関係は、よくしっているつもりです。その上で、公安警察の今後の活動のためにはやむを得ないと申し上げているのです」
「犯人の目星はついているのか?」
「無論です」
大崎は、そう言って数枚の写真を机上に出した。
「ウラ作業班が秘撮したものです」
「外人か」
「基調によると、その男はグルジア人、ミハイル・ギラウリ。」
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