偶然の恐怖?

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「ならもう一杯だけお茶飲んだら?うちの母親強引だから納得しないよ」 沢田さんはそう言った後、着替えてくると言って部屋を出て行った。 「じゃお茶入れるわね」 母親は何故か嬉しそうにさっき出したお茶を下げる。 「本当に結構ですから。私帰りますので」 「お願いもう少しだけでいいから」 何でそこまで引き止めるの? まさかこの偶然は作られたものなのか? この母親も私が課長の彼女だと知っていて何か企んでいるのか? 「うふふ。雅也が引き止めるなんて珍しいのよね。もしかしたら松本さんの事気に入ってるのかも」 楽しそうに話す母親を見て作意なのか私には区別がつかなかった。 出来れば沢田さんと二人きりになりたくない。 私は知らぬ間に敵陣に足を踏み入れてるのだ。 その時ふとサイドボードに目を向けると写真立てが目に入った。 立ち上がりその写真立てを手に取る。 なぜ今までこの写真に気がつかなかったのだろう。 これを見たらとっくに私はこの家から出ていたと思う。 その写真は沢田さんと母親が幸せそうな笑顔で写っていた。 何だか今までの沢田さんとは別人のように思えた。 もしかしたらこれが本当の沢田さんの姿なのかもしれない。 沢田さんが副社長の椅子を狙っている意図は解らない。 課長を嫌う理由も……。 でもこの写真を見てもしかしたらって思うことがあった。 もしかしたら沢田さんは……。 「何してんだよ」 急に声がしてビクッと体が反応した。 沢田さんは私から写真立てを奪うと「勝手に物色してんじゃねーよ」と小さい声で言った。 きっとそれは母親に聞こえないようにしたのかもしれない。 「すみません」 私も小さい声で言い元の場所に座った。 無言のリビング。 お茶遅くないかなぁ……。 私はキッチンを見つめた。 「お……遅いですね」 何だろ? 私は今一番一緒にいたくない人と一緒にいる。 何だか不思議な気分だ。 「なぁ。怖くねーの?」 「はい?」 突然声をかけられ変な声が出た。 「母親がいるから安心って訳か。でも残念だな。多分今お茶菓子買いに行ってるぜ」 えっ? 「でも出てきてないですよ」 「キッチンにも外に繋がるドアがあるんだよ」 えっ?って事は……。 今、私は沢田さんと二人きり……。 私の中に大きな警戒音が鳴り響いた。
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