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「巧妙に作られた合成ですね。普通の方だと見分けるのも難しいでしょう。でもその写真を鵜呑みにして関係のない社員を追い詰めるのはよくありませんね」
「だ……だって……」
早瀬さんは言葉が見つからないのだろう。
「なぜ直接俺や松本に聞かなかったんだ」
課長が冷たい声で言った。
「それとも誰かにそう言われたのか?」
早瀬さんは口を開かない。
「ここでは他の社員の仕事の邪魔になりますね。場所を移しましょうか?」
碓氷さんが課長に話しかける。
「そうだな。碓氷、後は頼むぞ」
そう言って課長はオフィスを出た。
「早瀬さん行きましょうか」
碓氷さんは早瀬さんを促しオフィスを出ようとした。
「あの。碓氷さん」
私も一緒に行きます。
そう言おうとしたがその前に、
「松本さんはいつも通り仕事をして下さい。何かありましたらこちらからご連絡いたします」
と言われ何も言えなくなった。
三人が出て行ったオフィスは閑散としていたが暫くするといつもの様子に戻っていった。
「早瀬さん。口を割るかね」
いつの間にか山下さんが私の隣に立っていた。
「どうですかね。でもあの二人に責められたら……。っていうか山下さん課長が入って来た時、何笑ってるんですか」
「だって……知ってたから余計にタイミングが可笑しくって……」
山下さんはまた思い出したのかクスクスと笑い出した。
本当に山下さんは笑い上戸だなと思う。
「早瀬さん。もうこの会社にはいられないね」
笑いの世界から戻ってきた山下さんが真面目な顔で言った。
早瀬さんのやった事は許されない事だ。
だけど早瀬さんも被害者なのかもしれない。
でも今回はあまりにも悪質で私も庇うつもりはなかった。
ひよりを傷つけた事は許せない。
「松本さん。怖い顔してるよ。さぁデザイン課は二人かけてるんだからその分しっかり頑張って」
山下さんに背中を押され私は席に戻った。
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