偶然の恐怖?

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「お勤めはこの近くなの?」 「いいえ。二つ先の駅です。奥田物産ご存知ですか?」 私がそう答えると女性は驚いた顔をした。 「まぁすごい偶然ね。うちの息子も奥田物産に勤めてるのよ」 えっ? 私の中に緊張が走った。 まさか……。そんな……ね。 奥田物産には何千人もの社員がいる。 そんな偶然なんて……。 その時玄関から物音が聞こえた。 私の心臓が一瞬跳ね上げる。 「あら?息子が帰ってきたみたい」 「ただいまー」 玄関から聞こえる声……。 聞き覚えのあるその声に顔色が一気に青ざめる。 「雅也お帰りなさい」 女性が立ち上がり息子さんが入ってくるのを待つ。 リビングに入って来た男性を見て私は固まる。 もちろん私を見た男性も……。 「どうして松本さんが?」 先に口を開いたのは相手だった。 「沢田さん……」 緊張して上手く声が出せない。 「あら?二人とも知り合いだったの。そうよね同じ会社なんだものね」 「母さんどうゆう事?何で松本さんがここにいるんだよ」 私を見つめたまま沢田さんは母親に聞く。 「あらやだ。私名前聞いてなかったわね。松本さんっていうのね」 「母さん!」 「何よ。そんなに怒らなくったって……。松本さんは私が倒れた所を助けて下さってここまで送ってくれたのよ」 「倒れたって……。大丈夫なのか?」 沢田さんは心配そうな顔で母親に駆け寄った。 「大丈夫よ。松本さんがいなかったら解らなかったけど……」 「そっか……」 沢田さんは私を見ると 「ありがとう」 と頭を下げた。 私は面食らう。 あの沢田さんが頭を下げてる……。 「そうだわ。松本さんも一緒にお夕飯どう?」 「えっ?」 それはちょっと……。 「ありがたい話なんですが予定がありますので。息子さんも帰って来られた事ですしもう安心ですね。私はここで失礼します」 そう言って立ち上がった。 早く帰らないと……。 まさかこの女性が沢田さんの母親だなんてそんな偶然……。 そんな偶然いらないよー。 私は心の中で叫んだ。
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