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~貴史~
美由の父親に連れてこられたのは小さな小料理屋だった。
カウンターに座り酒を酌み交わす。
美由の父親と一緒に酒を飲むのは初めてじゃない。
だが今日は特別なのかやけに緊張感がある。
言葉なく酒を交し合いそれが余計に緊張感を煽る。
「貴史くん」
そんな沈黙を破ったのは美由の父親だった。
「本当にいいのかね」
俺の方を見ずに話しかけてきた。
きっと美由との結婚の事を言っているのだろう。
「はい。私には彼女しかいません」
俺は正直な気持ちを言った。
「あいつは……美由はこの町で普通に育てきた。都会に出て色んな人と出会いそしてその中で恋愛をし、結婚するのだと思っていた。
まさかその相手が奥田財閥の御曹司だなんて……人生ていうのは解らないものだね」
「お義父さん……」
「貴史くん」
美由の父親が俺の言葉を遮る。
「俺は君との結婚を反対している訳じゃないんだ。君は近い将来何千人という社員の頂点となる。きっと忙しくなり家庭を顧みない事もあるだろう」
「いや私は……」
「君を責めてるわけじゃない。私もそうだったからね。君の所に比べれば本当に小さい店だが家族の事を忘れ仕事に没頭した時もあった。今の俺があるのは家族のおかげだ。諦めずについてきてくれた。
美由は……あいつの性格にそっくりだ」
お義父さんが言うあいつとはきっとお義母さんの事だろう。
「きっと黙って君のやる事に従うだろう。いや……口出しするか?」
「そうかもしれませんね」
お義父さんと顔を見合わせクスリと笑う。
きっと美由は今頃くしゃみをしているだろう。
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