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結局私以外の皆様は忙しくなかなか課長の両親に挨拶する機会がなかった。
だが絶対来ないということはなくてとうとうその日が来てしまった。
私は課長と奥田邸に向かっている。
久しぶりに来るが相変わらず広い。
普段しゃべる私が無口なのが気になったのか課長が話かけてきた。
「緊張してるのか?しなくていいって言っただろ」
「そうゆうもんじゃありません」
私はミジンコ並みの心臓してるんですよと訴える。
そんな私の言葉にククッと笑う課長。
どうやら課長はまったく緊張していない様子だ。
それが気に食わない私は頬を少し膨らませて言った。
「貴史さんだって緊張してたじゃない」
それは数週間前に私の両親に挨拶をしに言った時の話だ。
「当然だろうが」
課長はケロリと言う。
「俺はお前を奪う訳だからな。立場が違う」
違うけど一緒だよ!
と私は心の中で突っ込んだ。
そうしているうちに車は玄関ホール前に到着し碓氷さんにドアを開けてもらった。
課長は碓氷さんに車のキーを預けると私の隣に立ち腕を差し出してきた。
どうやらエスコートしてくれるらしい。
こんなスマートな動作にも私は慣れていなくてゆっくりと課長の腕に自分の腕を絡めた。
「何だか新鮮だな」
課長がクスリと笑う。
「だがこれからは慣れてもらわないとな」
そうなのだ。課長は奥田物産の御曹司。色々なパーティーに出席するだろう。
それには当然パートナーが必要になる。それはもちろん妻になる人間。
それは……私……だよね。
また違う緊張とプレッシャーが私に襲い掛かってきた。
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