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「―――・・・橘さん、橘さん」
自分を呼ぶたおやかな声。
目の前をオレンジ色に染める眩い光に
橘和美は目を覚ます
霞む視界に映る鮮やかな新緑に彩られた一面の草木。
手には無機質に光る小銃が握られている
束の間、当惑していると烏羽色の瞳が此方を見つめているのに気がつく
樹木の陰翳に覆われた小さく華奢な躯。
しおらしい大きな瞳には覚えがあった
「大丈夫?体調が悪いなら教官に言って休ませてもらった方がいいよ」
「・・・大丈夫よ北原さん、私は平気だから気にしないで」
いつもの様に愛想良く微笑み、
気丈を装い遣り過ごす
然し北原は憂える眼差しを外そうとはしなかった
これ以上詰め寄られるのは避けたかった和美は握られた小銃を背中に抱え逃げるように茂みに分け入った
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