ブログ小説『妬み』

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「私、貴女のこと、嫌いだったの」 向かいに座る綾瀬川さんは、目元を赤く染め ふふっと、軽く笑った。 細い指が握る、華奢なグラスに、赤ワインが揺れる。 私は、突然の発言に驚いて、彼女の整った顔を、まじまじと見つめた。 (いい大人が、"嫌い"って……) 子どもたちが同じ幼稚園を卒業し、数年。 別々の小学校でも、皆それぞれに新しいママ友は出来ていた。 けれど、今でも、私たちは仲良くやってきたはず。 戦友のように。 子どもが幼い時は、母親歴だって幼い。 その分、親密に。 「ちょっとお、何見つめ合ってるのお?」 断ち切るように、横から酔った大声が上がる。 昔は、育児の合間の息抜きブランチが、一段落した今は、やっとアルコール入りにまで成長した。 十数人で貸し切りの個室は、ママたちの陽気なお喋りで満たされる。 男の人には、わからない気持ちだろう。 子どもを夫や実家に預けて、自分が飲みに出ることは、後ろめたさが伴う。 たとえ、その子が大きくなっていても。 理屈ではない罪悪感が、酔いを加速する。 「何でもないわよ」 また、彼女は小さく微笑んだ。
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