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「フランボワーズタルトとキャラメルのソルベでございます」
若く、爪をきっちり揃えた女性が、皆のテーブルを行き来する。
横から話しかけたママ友は、ふらふらと、自らの席に戻ってしまった。
「嫌い」
彼女の胸元が、抑えた照明をキラリと反射する。
多分、いい石なんだろう。
興味が薄いから、詳しくわからないけれど。
私は無言で、冷たさを口に運んだ。
全く味がしない。
(私、何かしちゃったっけ?
……それとも、息子?)
引っ込み思案の我が子が、脳裏に浮かんだ。
お互いに男の子で、遊ぶ中での小さな怪我は、日常だった。
降園の後で預かり合いっこする中で、親が見てはいても、ケンカしてしまうこともあった。
(でも、お互いさま、だったよね……)
「ああ、嫌いなのは、貴女」
見透かしたように、赤く濡れた唇が動いた。
「……何で?」
二人の静かな声は、ひときわ高くなった周りの声に、かき消された。
女の三時間なんて、あっという間。
オーナーと懇意でも、そろそろ、このフレンチ店を立ち退かなくてはならない。
「手を繋いでたでしょ?
だから、よ」
(手……?)
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