1章‐メビウスの輪

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  ハルト達が目指すアサイラル国の首都『グレティネス』までは馬車で一ヶ月以上はかかるであろう道のりである。 その道中にはとにかく物騒な『大きな森』、八種類もの藤の花の咲き乱れる『八つヶ藤』を越え、『木が黄いろい山』を進み グレティネス最大の関所『竜宮の元』を通らなければならない。 さらにその各所は『魔物』と呼ばれるけだもの達がうろついているといううわさだ。 「ったく。国の防衛のためにこんなに自然の要害を利用するんだな、これでは確かに敵国も攻めにくいだろう。」 だが、逆にこの地から攻めに行きにくいだろうに。 「ハッ。軟弱ものが!武術大国の癖に小細工などしやがって!正々堂々戦え!」 精霊の『アドラ』が独り言のごとく難癖をつけた。 ぬいぐるみのようなかわいらしい中性的な姿とは裏腹に俺の精霊はやけに口が悪い。何か恨みでもあるのかアサイラルの話題になるとさらにその毒舌は勢いを増す。 そもそも精霊というものはしゃべらないものとして学び、友人にも協力してもらいその事実を確かめたが 「あぁ?おれは精霊じゃねーよ、悪魔。悪い精霊だよ!」 と、あっけなく一蹴された。 とどのつまり精霊であることには間違いないはずなのだが。 ちなみにいままでこいつの言い出した運命とやらが見事に的中したことなどあんまりない。 いわゆる役たた・・・ 「何か言ったか?」 強く鋭い目で睨まれた。深緑の瞳がいやでも目に入る。 「・・・いや、全然。」 あと、すごいくらいに鋭い。その能力をきちんと使いこなせばいいのに、と思ったり。 「ふん。まぁいいや。もうすぐ森に入るぜ。準備しておきな。」 目の前に広がる巨大な山。 ここには野盗・・・山賊がはびこっているといううわさの森なのだ。 下手に軽い気持ちで入ってしまえば、命はないだろう。 腰に佩いた剣の柄に手を当てながら暗くしげった闇の中に歩を進めた。
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