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としこのクラスの女子の間で「転び結び」という遊びが流行っていました。
願掛けのようなもので、やり方は簡単です。
夕暮れ時、日没の瞬間を狙って太陽に向かい前転します。前転し終わった時に太陽が地平線に隠れているか、もしくは自分の位置から見えなくなっていれば成功です。その際に願い事をします。
日没と同時に前転が成功していれば願い事が叶います。特に好きな男の子との縁結びに強い効果がある、ということでクラスの女子の間で流行っているのでした。
としこは好きな男の子がいました。クラスメイトのかなた君です。かなた君はサッカークラブのエースで、体育の授業でサッカーがある時などはチームのヒーローでした。クラスの女子はみんな狙ってます。
としこは転び結びに興味はありませんでしたが、かなた君と仲良くなれるならやってみようか、と考えていました。
でも問題がひとつあります。
転び結びで一番気をつけないといけないことがあります。
「前転する瞬間を誰にも見られてはいけない」。
としこの知っている日没がよく見える場所はひとつしかありません。
学校の帰り道、近所の高台にある公園。その公園から日没に向かって伸びていく一本の坂道。
夕暮れ時は人がいます。
「でもここでしかできなさそうだし……」
としこは来る日も来る日も学校の帰り道、この公園に通いました。日没の瞬間を何度も何度も見て、人がいなくなる時を見計らっていました。二週間が経ちました。もう諦めようかな、とベンチで日没を見ていた時です。
先ほどまでいた親子連れがいません。としこが夕暮れをぼーっと見ている間に帰っていったのでしょう。
「いまだわ!」
チャンスです。としこは公園から出て坂道と一直線上になっている日没寸前の太陽に向かいました。
まだか、まだか……。地平線に赤い太陽が隠れていきます。あとすこし、あとすこし……。太陽の頭がじょじょに地平線に溶けていくように小さくなっていきます。タイミングを伺います。
……!
太陽の頭はもう横に伸びる線のようです。としこは前転をする姿勢で構えました。しゃがみこみ、両手を顔の横に持っていきます。あとは日没と同時に前転するだけ――。
かなた君……。
かなた君と結ばれますように。願い事を忘れてはいけません。太陽の頭は線から点となり……としこは前転をするため体重を前に傾けました。
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