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おい、としこ。
誰かの声が聞こえました。
え?
ですが、としこの身体はもう前転のために体重を前に預け、回転を始めています。前転は一瞬でした。としこはすぐに声をかけてきた方を向きました。誰かがいます。
「何やってんのお前」
かなた君です。左腕にはサッカーボールを抱えています。
「かなた……くん」
としこは恥ずかしくて泣きそうでした。好きな人にこんな姿を見られるなんて。大失態です。
「お前コンクリートの上で前転したらそりゃあ痛いだろ。練習ならせめて砂場でやれよ」
かなた君はとしこが「前転の練習をしていた」と勘違いしたようです。としこは恥ずかしさと緊張で何も言えませんでした。
「そうだ。お前、ちょっとサッカーの相手してくれよ。ここの公園ならクラブのみんなが来ないから秘密の練習できるかなあ、と思って来たんだ」
……こくこく。
としこはうなずくしかありませんでした。
それから辺りが暗くなるまでとしこはかなた君の秘密の練習に付き合いました。としこは主にかなた君が指示した方向にボールを投げるだけでしたが、かなた君はそのボールを胸を使って上手に取り、足で上げるととしこに向かって器用にヘディングで返してきました。かなた君の秘密の練習はとしこにとってとても楽しい時間となりました。
「ありがとな」
かなた君は練習が済むとすぐに帰ってしまいました。
としこは嬉しくて胸がいっぱいでした。公園を出て家へと向かい歩きはじめます。
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