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駆け寄る行員たち。苦悶の表情を浮かべたまま動かない融資課長。
後ろ向きに倒れた為、後頭部を強打し脳震盪を起こしたのだろうか。
白い天井のスピーカーから流れるラジオ体操の音楽が消え行くのを見届けるように、意識が遠ざかっていった。
「課長しっかりして下さい。課長、起きて!」
朝から課長へ冗談を飛ばしていた融資の女子行員が泣き叫び訴えるも、意識は戻らない。
救急法に覚えがある次長が行員の中に割って入った。
おもむろに大山の額に左手を当て、右手であごを上に向かせて気道を確保する。
自分の頬を口と鼻辺りに近づけ、数秒後……。
心配する行員に告げる。
「大丈夫、呼吸はある」
ピィーポー、ピィーポー、……
サイレンの吹鳴が近づき、銀行の開店時間に重なるように救急車が到着した。
「誰が呼んだんだ?」
開店と同じタイミングに狼狽したのか、つい口走ってしまう支店長。
「私です」
冷静に理由も添えず答える次長であった。
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