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「あのさ。そんな絶望的な未来を予想しないでくれる?こんなリップサービスが分からないようじゃ、真世坊こそ、寂しく独身のまま一生を送るかも知れないぞ?」
そう言って、私の後に束ねた髪をクイッと引っ張り、レジを出て行く。
「もう!髪引っ張らないで下さい。それに私が独身で終えようと、どうしようと余計なお世話です」
「分かった。君の気持ちはよく分かった。こうしよう。三十年後、もし、真世坊がこの土産物売り場で温泉まんじゅうを売っていたら、俺が面倒見てやる。なぁ!それでカンベンしてくれ」
「三十年もここで働く気はないですから」
「この不況で今の日本、働く職場ってなかなか見つからないよ。ここで、骨を埋めなよ」
今度は真世の頭を撫でて、二コリと営業用スマイルを浮かべて、フロントへと帰って行った。
充は口の減らない男だった。
黙ってあのような顔で営業用スマイルばかり浮かべていると、カッコイイ部類に入る容姿なのだが。
数ある新入社員の中から、ホテル内幹部からフロントを任された時点で、その容姿を認められていると言っても過言ではない。
ホテルとすれば、やはりフロントは顔なのだ。
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