プロローグ

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子供を産んで育てたことのない伯母ほど、厄介な人はいない。 二年間住み慣れ親しんできたこのボロアパート内で、急に送られてきた、食パン三本を見て草野真世はボンヤリそう、呟いた。 短大を卒業して、この安アパートとも今日でお別れだと言う時に、実家から三十分ほど離れた場所に住む伯母から送り付けられてきた食パン三本。 形の揃った三本の食パンは、発砲スチロールの中にきっちりと収まり、数センチ空いた隙間には保冷剤がまだ冷えた状態で入っている。 この三本の食パンにお誂え向きに作られたように見える発砲スチロールの箱。って、そんなことはどうでもいい。 食パン一本の大きさは一斤とかじゃなく、二斤半もある。 それが三本。 確かに、このパン屋さんの食パンが好きだと、伯母に話したことはある。 あるのだが、女の一人暮らしの冷蔵庫の大きさは、小じんまりしたものである。 そこに、この巨大な食パン三本も収まる筈がない。 それ以前に、これを一人で平らげるのには、何日も掛る。 当然、冷凍保存するしかない。 小じんまりした冷蔵庫の冷凍室など、ネザーランドウサギが一羽、横に寝転ぶくらいの広さしかないのだ。
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