プロローグ

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「このパン屋の食パンは真世が好きだったはず」 急に伯母である、笹川光代の頭にそう、過る物があって、思い付きのまま、このボロアパートに送り付けて来たんだ。 今日で、このアパートを引き払って、実家に帰ると言うのに、そんなことはお構いなしと言うか、真世の母であり、伯母の実の妹の草野晴美から聞いてはいたのだろうけど、頭の中からスッポリ抜けて、この食パンを送り付けて来たのだ。 帰省への荷造りが済み、一息ついていた矢先にこれだ。 伯母の光代から受ける厄介ごとは今日に始まったわけじゃない。  『真世はミカンが好きだった』 伯母とは産まれた時からの付き合いだから、それくらいのことは知っていて当然だ。 だからと言って、女一人のアパートに十キロも入ったミカン箱を送りつけて来るのはどうかと思う。 伯母として見れば、高校を卒業したばかりの可愛い姪の一人暮らしを可哀そうに思ってのことなのだが、限度というものがある。 しかもワンルームプラスキッチンと言う狭いアパート内に、十キロの箱はかなりのスペースを取ることになる。 靴を三足並べるだけで、いっぱいの玄関などに置くことも出来ないし、冷蔵庫にも入らない。 仕方なく、アパートの大家さんや、隣の部屋に住む看護学生など数名や、同じ大学の子に配りはしたが、それでも、食べ切るのにかなりの時間を要した。
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