プロローグ

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真世の母の生まれ育った場所は漁業がさかんな街だった。 サンマ漁やカツオ漁で生計を立てている人が多く、今では遠洋漁業も盛んで、大型の漁船が港に幾つも停泊している。 そんな街で伯母は、中学を出て直ぐに、地元の海女の見習いに入った。 痣にコンプレックスを持っていた伯母は、同世代と同じ環境で過ごしたくなかっただろう。 同級生のほとんどが高校へと進学する中、伯母は、地元の海女の見習いに入ったのだ。 この年になって、分かるのだが、その頃から伯母は、自分一人で生きて行く道を選んでいたのだろう。 今では、めっきり海女の数も少なくなったそうだが、伯母は六十を過ぎた今でも、海女の仕事を続けている。 海女の仕事が辞められないのだそうだ。 伯母の海女の仕事はその時期に寄って色々変わる。 春先から夏の終わりまでは海女の本業であるアワビやサザエを海に潜ってとり、秋から正月過ぎまでは伊勢エビ漁の手伝いをする。 桜の咲く頃は、ウニをとって、殻から身を取り出し加工するなど、年中休みが無いらしい。女ひとりが生きて行くには十分な報酬を得られるのだそうだ。 お陰で伯母は一人暮らしには勿体なほどの家を建てて住んでいる。 回りの人たちはアワビ御殿と称している。
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