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そんな、旅行中にありがちな会話をしていると、気づいたときには店内に客は俺一人になっていた。
俺は、カウンターにお金を置いた。
すると、おばちゃんがにっこり笑いながらお金を俺のシャツのポケットにねじ込んだ。
「今日はいいの。私たちも楽しかったし、ここはご馳走しとくわ。」
「いや、そんなの悪いですよ。ちゃんとお金払いますって。」
「いいよ。金持ってなさそうだしな!!」
今度はおじちゃんがそう言いながら、楽しそうに笑いだした。
俺は田舎を馬鹿にしすぎていたことに反省した。
すると、おじちゃんが皿を洗いながら煙草を口にくわえた。
「兄ちゃん、今夜宿はとったの?」
「いや、まだです。」
「じゃあ、泊ってけよ。」
「いや、そこまで甘えるわけには…。」
「泊れって!金持ってないくせに、見栄をはるな!!」
そう言って、またおじちゃんは豪快に笑った。
俺は、その日レストランの夫婦の家に泊めてもらった。
彼らは、俺が直木賞作家ということを知らなくても、こんなに親切にしてくれた。
俺は、改めて夫婦に感謝しながら眠りについたのだった。
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