プロローグ

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直木賞作家、小野寺ススム。 それが俺の人生において、最大の自慢できる生きた証だ。 小野寺ススムとして小説家デビューを果たしてから、もうすぐ10年経とうとしている。 だが、2年前に直木賞を受賞してから、1文字も小説を書いていない。 ありとあらゆるアイディアを膨らませた。 そもそも俺自身の人生経験が少ないせいなのか、ありきたりなアイディアしか浮かばない。 直木賞を受賞するまでは俺は、自分の人生に多少のアドリブをきかせて小説に仕上げた。 想像力などないのだ。 出版社からも新作はまだかまだかと、せかされ始めている。 でも、俺はもうここまでの才能なのだ。 子供のころから、内気で引っ込み思案でおとなしく、不満を抱えても一言も言い返せず、グッと喜怒哀楽すべての感情を我慢して、ただ静かに微笑んで気付けば今年で35歳だ。 そのせいか、子供のころから書く事が大好きで、いつも物語の主人公は目立たない俺自身だった。 物語の中でなら、俺は何にでもなれた。 だから、小説家としての道を自ら選んだのだ。 まさか、自分で決めた道に首をしめられる事になるとは、思いもしなかった。 そんな、才能の限界に直面し、お金もなく、恋人もいない34歳の俺宛てに、ある日一通のファンレターが届いた。 フルーツの甘酸っぱい香り付きのピンクの可愛らしい封筒の封を切ると、中からはどこだか分からない田舎の風景の写真1枚と手紙が1枚添えてあった。
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