もうひとりの結くん

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「……俺のため?」 結くんは目を丸くするとパチパチとまばたきした。 「今日は結くんの卒業式だから……俺が結くんに作るのっ。結くんは手伝っちゃだめ」 もうバラしてしまったからには最後まで絶対ひとりで作らないと……! フイッと結くんに背中を向けフライパンにまた向かう。 ガシガシとフライ返しでフライパンの中を混ぜていると、ふとお腹のあたりに腕が回り、ぎゅうっと抱きしめられた。 「……結、くん?」 「ありがと……知里……うれしい」 背中で、すごく優しい声が聞こえ、胸がキュンと苦しくなる。 結くん……。 ここで抱きしめ返したいところだけど、それじゃあ料理が進まない。 性欲をコントロールしないと! ご主人様の言いつけは守りますっ! 「あともうちょっとだから、待っててね?」 「……うん、楽しみにしとく」 そう言うと結くんは俺から離れて部屋へと戻って行った。 それから約30分後……。 「はい、めしあがれっ」 「おお~、おいしそーじゃん。ケチャップの文字はともかく……」 「え!?ケチャップがいちばん頑張ったとこなのに!」 “ゆうくん、だいすき” って書くの結構大変だったんだから! 「せめて、そつぎょうおめでとう、とかじゃねぇの、フツー」 「だって文字数多すぎじゃんか、それ」 「まあ……そうだけど……」 「さ、俺からの重すぎる愛を食べてください」 「自分でそういうこと言うなよ……まあ、食べるけどさ……いただきます」
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