もうひとりの結くん

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家事を終わらせると、着替えてとある場所へ向かう。 そこは、駅前のファッションビルに入っているジュエリー売り場。 まさか自分がここに来るなんて数年前までは考えたことなかったけど……。 お目当てのものはもちろん、ペアリング。 女の子じゃあるまいし、結くんは指輪になんて興味ないだろうけど、それでも一応ここでケジメはつけておきたいなと思ったんだ。 婚約指輪、みたいなちゃんとしたものはお金を稼げるようになってからって決めてるから今日はラフな感じのにするつもりなんだけど……どういうのがいいんだろう。 ショーケースに綺麗に並んだペアリングを眺めていると、これまた綺麗な女性の店員さんがやってきた。 「サイズの方は色々取り揃えておりますので、気になるものがあればおっしゃってくださいね」 「あ、はい。えーと、ちなみに11号って……ありますか?女の子の方なんですけど」 結くんの左手薬指のサイズはもう把握済み。 付き合って間もない頃、手を繋いだときに結くんの指が細いという話になって、そこから話を広げてサイズを聞き出した。 やっぱり聞いておいて正解だったよ。 「そうですね……11号だと……こちらのショーケースのものは全てございます」 「あー……そうですか……」 どうしようかな……何がいいか本当に迷う。 「今日はペアリングをお探しなんですか?」 「はい。でもなにがいいか……迷ってて……」 「そうですか~。こちらなどは人気商品なんですがいかがですか?」 紹介されたペアリングはいかにも女の子が好きそうな可愛らしい仕上がりで……俺はともかく結くんが「なにコレ。女子じゃん」とか言いそうだよなー……。
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