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雲一つない、星々が煌めく夜空から、ぼんやりと三日月が静寂な街を照らし出す。
人々は誰もが眠っている真夜中。
外に出ている人は誰もいなかった――二つの人影以外には。
街の一角の大きな屋敷が立ち並ぶ道に、塀に寄り掛かっている人と、その前に立ちはだかっている人がいた。
前者はまだ若い女だった。
寝巻き姿で、呆然と立ち尽くし、怯えた様な瞳は大きく見開かれている。
もう一人はその瞳を覗き込む男らしき姿だった。
女を覗き込む瞳は真っ赤に染まっている。
女はその真紅の瞳から目が逸らせなかった。
そして、見つめられている女の瞳はだんだんと虚ろになっていき生気が失われていく。
しばらくすると男の赤い瞳は色を失い、漆黒となった。
そして、女をもう一度見て、ニヤッと笑うと、男は小さな呟きを残して闇に融けていった。
「ごちそうさま――」
女はまだ固まっていたが、その上体がゆっくり傾き、倒れた。
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