幻惑の森 戸惑いの幻影

9/65
前へ
/67ページ
次へ
はたまた場所は変わり、やっぱりここは森の何処かのとある場所。壁のように立ちふさがる枝葉を掻き分けて進む、二人組の姿があった。 「…ダメだ、さっぱり方角も場所もわからん」 足下で鬱蒼と生い茂る草を踏みしめ、かなり歩き回った後らしく肩で息をするアークとトリエラ。そして彼の手には、愛用していると見える一つのコンパスが握られている。 しかし、その針は狂ったように回転を続けており、本来の役目を果たすつもりなど無いらしい。もっとも、それは本人の意思ではないだろうが。 「何か、特殊な磁場みたいなものが関係しているのでしょうか……何にせよ、不用意に歩き回ったところで、さらに深く迷い込むだけですね」 「くそっ、リクト達とこんな場所ではぐれるとは……」 この状況下では、この場に居ない四人もバラバラである可能性が高い。先ほどから少し探索をしているのだが、単なる徒労に終わっていた。 旅慣れている自分達とは違い、陸斗達にとっては厳しい状況だろう。 「それにしても……本当にここは何処なのでしょうか?嫌な気配というか……その……」 先ほどからの違和感に、トリエラは耳を澄ませた。森の中だというのに、小鳥のさえずり一つ聞こえない無音の空間。まるで、世界の一部から切り離されてしまったかのように錯覚させられてしまう。 さらに、森全体に立ち込める甘い花の香りのせいか、少し頭がクラクラする。あまり長時間居座っていては不調をきたしてしまいそうだ。 しかし、まったく状況が掴めずにいるトリエラに対し、アークは何か思い当たる節があるのだろうか。腕を組み、確信に至る最後のピースを探るかのように頭を悩ませて唸っている。 「アーク……?」 「…もしも、この地が本当に東の大陸であるならば……思い当たる節が無いでもないのだがな」 顔を上げてそう語るアークに、トリエラも予想していたものがあったのだろう。だが、それは最も避けたかった可能性だったようで、みるみるうちにトリエラの顔が青ざめていった。 「そんな……まさか、それでは……」 「ああ、状況は思っていたよりも最悪のようだ。無事に、六人揃って森を出られればいいがな……」 「アーク、たとえ状況はそうであっても、そのような言葉は―――」 不意に、トリエラの背後で音を立てて茂みが揺れる。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1806人が本棚に入れています
本棚に追加