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伝わってくるのは、こちらの様子を窺う何者かの視線と、突き刺さるような殺意。
こんな状況では、何が出て来てもおかしくはない。アークは剣を鞘から抜き、トリエラはいつでも援護出来るよう手の平に魔力の光を宿らせた。
先ほどから感じる、この殺意。魔物による野性的なものではない。もっと人間的な、明確なものとでも言うべきだろうか。しかし、殺人鬼のように狂っているわけではなく、まるで氷のように冷たく静かなアサシンの放つものによく似ている。
「……!そこかァッ!!」
その刹那、振り向き様にアークが放ったのは腰に提げていた多目的ナイフ。その鈍く煌めく白刃の切っ先が向かうのは、なんとトリエラであった。
「アーク、何を―――きゃああッ!!」
これには予想外だったトリエラだが、とっさの判断で頭を抱えてしゃがみ込む。その瞬間、彼女の背後にピッタリと張り付いていた真っ暗な黒衣に身を包んだ何者かが姿を見せた。
突き進んでくるナイフに対し、その人物は無造作に腕を横に一薙ぎ。身体の横でピタリと止まった腕の先では、刃を指の間に挟むようにナイフが収まっていた。
「いやはや、お見事ですね。よもや、完全に気配を消した状態で気付かれるとは……」
マントをはためかせるように勢い良く黒衣が取り払われると、その中から現れたのは場違いすぎるパリパリのタキシード。クルリと手にしたステッキを地に着け、軽く片手を上げて微笑みながらポーズを決めるのはアーク達の宿敵、ジャックであった。
一見、アークにも劣らない優男に見えるこの人物。その正体は陸斗と同じ世界のイギリスでその名を馳せた殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーこと切り裂きジャックである。
何の因果がこの世界に召還されて以来、今は何らかの組織で殺人鬼としての腕を振るっている、現在明確な陸斗達の敵であった。
「貴様は、ジャック……ッ!」
「しかし、些か遅すぎですね。私がその気になれば、このお嬢さんの美しい顔を真っ赤に染める事も出来ましたが……」
手元で受け止めたナイフを弄びながら、おもむろにジャックは座り込んだトリエラの傍らに膝を付く。そして何を思ったのか、足下で摘んだ一輪の真っ赤な花を差し出した。
「私のせいで、驚かせてしまいましたね。さぁ、私の手を取って御立ち下さい。お洋服が汚れてしまいますよ」
「…………っ!」
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