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敵対関係にあるにも関わらず、早速優男ぶりを発揮するジャックだが、それ以前に結果を予測出来ないものだろうか。
そして案の定と言うべきか、トリエラの振るった手の平がジャックの頬を打つ。彼がよろめいた隙を突いて、トリエラはすぐさまアークの元へと駆け戻っていった。
「痛たた……この世界の女性は、皆さん手厳しいですねぇ……」
「殺せるのならば、何故殺さなかったのです!?私に情けを掛けたつもりですか!」
どうやら、一撃を加えられた大きな理由はそこにあるらしい。真っ赤になった頬をさすりながら立ち上がったジャックは、とんでもないとばかりに首を振ってみせた。
「まさか。私は情けを掛けるなど失礼な真似を致しません。しかし、殺しとは芸術です。絶望と恐怖に染まった声、表情、必死に私へ命乞いをする様を見ずして、ナイフを突き立てることなど出来ませんよ。その者の最後を美しく飾って差し上げるのは、殺人者たる私の務めなのですから」
英国紳士らしい素敵な笑顔を見せてくれるが、言ってる事はとんでもない。もはや、正常な人間とは完全に感性がすれ違う次元にトリップしてしまっている。
「悪いが、貴様のくだらん与太話に付き合う暇は無い。だが、貴様が何故ここにいる?俺達の首を取りに来たか?」
奇襲や闇討ちを得意とするジャックがこうして姿を見せている状況は、アーク達にとって絶好の機会である。武器を構える彼らに、ジャックはまたもや首を横に振った。
「それも面白いのですが、残念ながらこちらは別件です。御二人を見つけたのは、まったくの偶然なのですよ」
戦う意思は無い事を証明するように、ジャックは手にしたナイフをアークの足下に放った。
アーク達も、陸斗達を見付けなければならないというこの状況で、時間を浪費するわけにはいかないと判断したのだろう。しばらく様子を窺うように睨み付けていたが、やがて静かに剣と拾い上げたナイフを鞘に収めた。
「御理解、ありがとうございます。では、急ぎの用ですので私はこれで……」
「待ちなさい。まだ、私達は貴方の目的を聞いていませんよ。おとなしく白状なさってください」
踵を返したところで、トリエラから声が掛かる。振り返ったジャックは、少し困ったように苦笑いを浮かべた。
「どうか、御安心を。あの少年達を害するためでもありません。ただの人捜しですよ」
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