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「人捜しだと……?」
「ええ、そうです。確かに、この森の何処かに居るはずなのですが……何処に行ったんでしょうね、彼女は……」
腕を組み、唸るジャックの何気ない言葉に、アークはトリエラと目配せを交わした。ジャックが捜しているのは、陸斗を手中に収めんと襲ってきた吸血鬼、レティシアに間違い無い。
恐らく、あの時転送の光に巻き込まれたのだろう。だとしたら、陸斗達の身が危険に晒されている可能性が非常高い。
「そういえば、何故御二人は此処に?それも短期間の間にどうやって―――」
「行くぞ、トリエラ!あの吸血鬼よりも早く、リクト達と合流する!」
「はい!急ぎましょう!」
ジャックからの質問を遮り、アーク達は慌ただしく再び木々を掻き分けるように茂みの中へと消えていった。
遂に一人取り残され、ポツンと立ち尽くしたジャック。アーク達の気配が完全に遠退くと、おもむろに腕を組み、呟いた。
「おやおや……レティシアさん、まだ生きていらっしゃいましたか……」
別の獲物を追い掛けていたところで、なんという行幸。主の感じていたレティシアの魔力が途絶え、その生死が定かでなかったのだが、これで生存が確認出来た。
もともとあまり信用はしていなかったのか、レティシアを失った時の主の反応は非常に冷めたものであったことを記憶している。
しかし、彼女は主の捜し求めるアレの居場所を唯一知る存在だ。再び存在が確認された以上、報告する必要があった。
「となれば……もう彼女の事はいいですかね。この森に入って、生きているとは思えませんし……」
手元まで引き寄せた魚を逃がすのは残念だが、物事には優先順位というものがある。流儀に反するとはいえ、組織の中で生きる以上は避けられない運命である。
心の底から落ち込んだような溜め息を一つ。身を翻し、今度こそジャックはその場を後にするべくアーク達とは逆方向に歩き出すのだった。
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