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「ん、ぅ……っ?」
頭が痛い。クラクラする。鈍痛の収まらぬ頭痛の嵐の中、陸斗は静かに瞳を開いた。
目に入ったのは、草木が作り上げる緑色の天井と、むせかえるような甘い匂い。はて、ちょっと前にも同じ感覚を感じたような気がするが―――頭の痛みで記憶が少々曖昧である。
「あっ、気が付いたんですね。大丈夫でしたか?」
身体を起こすと、少し離れた場所に居たラクーが駆け寄ってきた。そして手を伸ばし、陸斗の頭をスリスリと撫でさする。
彼もつられたように何気なく自分の頭へと手をやれば、そこにはポッコリと膨らんだ感触。どうやら、相当大きなコブが出来ているらしい。
「いつつ……っ!俺、どうなったんだっけ……?」
「リクトさん、覚えてないんですか?急に落ちてきたモノに当たって、そのまま気絶しちゃったんですよ。ほら、これを見てください。ボクの指、何本に見えますか?」
陸斗の容量ガラガラのオツムを心配しているのか、目の前でピースをした手を軽く振ってみせるラクー。
心配しなくとも、意識の方はしっかりしている。応える代わりにラクーの尖った耳を手持ち無沙汰にサワサワしていると、陸斗は忘れかけていた素朴な疑問を思い出した。
「ところで、俺は何にぶつかったんだ?森の中だし、物凄く固い木の実とか?」
「あっ、あの、その……ひゃぅぅっ!と、とにかく、耳から手を離してくださいぃぃ……っ!」
顔を真っ赤にして身悶えるラクーの気持ち良い手触りの耳から、陸斗は妙にイケナイことをしているような気がして名残惜しくも手を離した。やはり、姿は人間に近いとはいえ、そのあたりは敏感だったりするようだ。
「おっと、つい夢中になっちまってた。それで、何だったんだよ?」
「あの……ですね。ちょっと、こちらへ……」
かなり言いにくそうにしているラクーから手を引かれ、陸斗は首を傾げながらも立ち上がった。
さらに、先導されるままに歩くこと数歩。そこは、先ほどラクーが座り込んでいた大きな木の下であった。
「おいおい。たいしたことじゃないんだから、勿体ぶらないで早く言えって」
「じゃあ、その……驚かないで下さいね?」
すると、木の根元辺りの何かを指差すラクー。陸斗も肩越しに覗き込むと、その瞬間彼の瞳は月よりも丸くなった。
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