1806人が本棚に入れています
本棚に追加
「い、いえ、ボクは大丈夫です。それよりもリクトさん、この人……」
陸斗の差し出した水筒を、ラクーは遠慮しているのか首を横に振って拒否。横たわる少女の顔を、なにやら穴が空くほどに見つめている。
こんなにも、ラクーが初対面の人間に興味を示すのも珍しい。突然上から振ってきたという不審感満載の少女に何か引っ掛かる事があるのか、それとも―――
「…まぁ、ラクーも男の子だしな。そういうのに興味も出るかぁ……」
「な、何を言ってるんですか!違います!そんなのじゃないんですッ!!」
「へぶッ!?」
ちょっとしたお茶目だったというのに、凄い剣幕で怒られてしまった。水筒の飲み口を口にくわえたまま尻尾で頬を叩き飛ばされた陸斗は、勢い余って少女の方へと向かい―――
ムニュ。
「はぅ……っ」
二つ並んだ柔らかいものの間に顔を突っ込み、かろうじて地面との熱い接吻を免れた。
「…ん~……?」
なんだ、このとんでもなく心地の良い感触は。ちょっと顔を動かせば、それに反応してプルプルと微かに揺れる。手触りもフカフカ柔らかで、且つ指先を押し返してくるような弾力性もある。このまま、いつまでも触れていたくなるような衝動が押し寄せてきた。
「む……く……っ!」
しかし、この息苦しさは堪え難い。半球状の柔らかい物体を鷲掴むように両腕を突っ張り、陸斗がよっこらと顔を上げると―――
「…………」
「…………」
いつの間にか目覚めていた少女の、燃えるように真っ赤な瞳がこちらを見つめていた。
どうやら、陸斗は謝って少女の上に覆い被さっていたらしい。となれば、彼が現在触れているものは彼女の一部となるわけで。
「…え、っと……?」
恐る恐る、陸斗は自分の手元へと視線を下ろした。大きく開いた胸元から頭半分露出した、少女の胸をしっかり確保している自分の両手を。
「ひ……っ!」
陸斗よりも一足先に事態を把握したらしい少女が可愛らしい小さな悲鳴を上げる。しかし、それがすぐに悪鬼のものへと変化するのに、そう時間は掛からなかった。
「ち、違う!違うんです!これは、その、あれですよ!不慮の事故というものでぐぶォふッ!!」
放たれた少女の拳は、綺麗な曲線を描いて陸斗の右頬を打ち抜いていた。まるでコマのように回転しながら今度こそ陸斗が地面に倒れ込んだのと同時に、少女は飛び上がるように立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!