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「き、貴様ァッ!曲がりなりにも敵同士とはいえ、よもや寝込みを襲うとは卑怯者め!それでも奴の息子かッ!!」
「ぅ、うぅ~……ご、ゴメンナサイ……」
真っ赤に腫れ上がった頬を押さえて啜り泣く陸斗に向かって、謎の少女はさらに追い討ちを掛けるように怒声を浴びせ掛ける。
確かに男として最低な事を仕出かしたのは自覚しているが、あれは紛れもない不可抗力。他意はない。本当に。
しかし、よほどお怒りになっているのは理解出来るのだが、この怒り文句はどうだろう。この少女と敵同士になったような覚えもなく、それ以前に会ったことも無い。
にもかかわらず、まるで少女は自分の事を知っているような口振りだが―――
「り、リクトさん!この人、もしかしたら……!」
やっとこさ立ち上がった陸斗へと、慌てふためいた様子で駆け寄ってくるラクー。まるで信じられないようなものを目の当たりにしたかのような表情で、目の前の少女を指差している。
「こら、ダメだぞラクー。誰かに向かって指を差すのは立派なマナー違反なんだから。お前にそんな失礼なことを教えた覚えはないぞ」
「ご、ごめんなさい……じゃなくてっ!リクトさん!この人、レティシアさんですよ!」
ラクーの言葉に、一時停止よろしく固まる陸斗。彼に向けていた丸くなった瞳を一時少女へと向けるも、すぐに再びラクーへと戻した。
「はははっ、冗談キツいって。確かにパッと見で性格キツそうだし、勘違いサディストみたいな同じ格好してるけどさ。第一、アイツはもっと歳イってたろ。あんな若くなかったって」
「く……クククッ…………単に見た目で判断するとは、浅はかだな。ティアマットの息子……ッ!」
先ほどとは比べ物にならないくらいの怒気を含んだ声色に、陸斗は反射的にラクーから少女へと振り返った。
まるで、親の仇を見るかのように妖しい輝きを湛えた真紅の瞳で陸斗を睨む少女。自らの命に直接刃を突き付けられているかのようなその雰囲気を、忘れられるわけがない。
「まさか……本当に……?」
「ああ、その通りだッ!よもや、貴様が我をそのように見ていたとはな……ッ!」
まさかとは思ったが、なんとレティシア御本人様でしたか。陸斗を睨み付けながらギチギチと爪と牙を鳴らす様子は、まさに狂犬とでも言うべきだろう。
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